甲南大学 理工学部

〔量子ナノテクノロジー研究所自己点検報告書より抜粋)

半導体研究室 研究成果

 
 


・水素ガス中でレーザーアブレーションを行い、プルームのサイズと基板・ターゲット間距離で凝集構造を制御可能であること、繊維状の構造はフラクタル構造を示しフラクタル次元によって構造を特徴付けられることを明らかにした。

・水素ガスとヘリウムガスの混合ガスを用い混合比を変化させて表面水素の被覆率を制御可能であること、表面水素被覆率を制御することによって集合体構造の空孔度が制御でき、量子結合の制御に利用出来ることを示した。

・雰囲気ガスの総圧と水素ガス分圧の2つを変数とした集合体構造のマップを作り上げた。

・プルームの観測と堆積されたナノ結晶の構造の観察からナノ結晶の表面形成過程を明らかにした。

・窒素ガス中でレーザーアブレーションを行うことによって表面処理なしに表面窒化されたナノ結晶シリコンの作成に成功した。

・ナノ結晶集合体の空孔度の減少によるバンドギャップエネルギーの減少が見られ、量子結合の影響であることを示した

・一次元的に配列した集合体では測定温度領域によってES型のバリアブルレンジホッピング、クーロンブロッケードの特徴を示した。

・三次元的に配列した集合体では、E-S型のバリアブルレンジホッピング、クーロンブロッケードのランダムネットワークの特徴を示した、後者は量子ドット集合体でのパーコレーション伝導になっていることを示している。

・ナノ結晶にイオン注入でドーピングを行いナノ結晶の電気伝導度の制御に成功した。


 以上のようにナノ結晶の配列の制御に成功し配列によって伝導機構が異なることを明らかにした。パルスレーザーアブレーションのパルス励起の特色を巧みに利用し雰囲気ガスとの反応によってナノ結晶表面の制御を可能にした点が特筆すべきである。ナノ結晶の表面制御が集合体の構造制御につながり量子相関の研究を可能にした。また一連の研究がパルス励起後のナノ結晶生成メカニズムに関する知見を与え、2プルーム衝突によるナノ結晶構造制御という新しい展開を生み出した。ナノ結晶集合体の電気伝導の測定からは集合体で発現する新機能を明らかにしてきた。このようにナノ結晶の配位の制御に成功し量子相関に関わる現象を制御することが出来た。

 

シリコンナノ結晶集合体

CdS,CdSe系ナノ結晶

・量子ドットと分子間の相互作用であるエネルギー移動を定量的に見積り、量子ドットと色素分子間、小さな量子ドットと大きな量子ドット間、同じサイズの量子ドット間の双極子-双極子相互作用によるエネルギー移動を確認した。

・異なった量子ドットサイズ間および同じ量子ドットサイズ間での共鳴エネルギー移動はおのおの0.13ns-1および0.08ns-1であり、同じサイズのドット間でコヒーレントな共鳴エネルギー移動が起こりえることを示唆した。

・コロイド溶液の濃度を変化させてドット間距離すなわち量子相関を変化させ粒子間距離が10nm以下で共鳴エネルギー移動が強くなり、寿命は粒子間距離の6乗に比例することを確認した。また粒子間距離に依存する非輻射遷移が発生することを見いだした。


 以上のように共鳴エネルギー移動と言う観点から量子結合系に関する知見を得た。量子ドットにおいては良質なものであってもサイズ分布が避けられない。また、ダークエキシトンとブライトエキシトンが存在し同じサイズのドット間でコヒーレントな共鳴エネルギー移動を観測するのは難しい。コヒーレントな共鳴エネルギー移動を直接的に観測することは出来なかったもののコヒーレントな共鳴エネルギー移動の存在を示唆する結果が得られた。

エネルギー関連デバイスへの展開

・パルスレーザーアブレーション法で光触媒材料であるInNiTaOのナノ結晶薄膜を作成し、ターゲットの組成比が維持され、Niのドープによる可視光での吸収帯を確認した。

・増感剤にCdSe ナノ結晶を用い活性層にTiO2を用いた太陽電池を試作し、CdSeナノ結晶の表面を CdS, ZnS および CdS/ZnS で被覆することによって効率が向上することを確認した。

・パルスレーザーメルティング法を用いシリコンへ硫黄を過飽和ドープし硫黄間の量子相関によるとみられるバンドギャップ以下の強い吸収を観察した。この光吸収は中間バンドによる可能性があり太陽電池材料としての可能性を示唆する。


 ナノ物質と環境との相互作用は広義の量子相関と言える。光触媒や太陽電池は光によって電子と正孔を生みだし環境に作用するという観点からは同様な原理である。本研究は光触媒や太陽電池として有用なナノ構造体を作り上げ機能性を確認し、設計指針に貢献したという意味では重要である。しかし真に重要な効率の観点では今後の研究に期待するところである。本研究で重要なのはパルス励起による数十ナノ秒スケールの材料ダイナミクスを利用して有用な非平衡材料を作りうることを示した点にある。

<シリコンナノ結晶の配位の制御>

量子力学的結合を実現し量子相関現象を引き出すためにはナノ配位の制御が必要である。配位の制御を行うためにはまずパルスレーザーアブレーションによるナノ結晶過程の解明から始める必要がある。本研究ではシリコンナノ結晶をガス中でのパルスレーザーアブレーション法で作成し、配位の制御と量子結合の実現を試みた。本研究の特徴はナノ結晶の表面形成過程に注目し、これをナノ結晶集合体の構造制御に利用した点にある。ナノ結晶集合体の形状制御が雰囲気ガス圧の制御によって可能であることは以前から知られていた。しかし、ガス圧が集合体構造に与える影響は明らかにされていなかった。本研究では水素ガス中でレーザーアブレーションを行い、プルームのサイズと基板・ターゲット間距離が重要で基板上で凝集した場合には柱状の凝集体となりプルーム中で凝集した場合には繊維状になることを明らかにした。そのなかで繊維状の構造はフラクタル構造を示しフラクタル次元によって構造を特徴付けられることを明らかにした。構造を定量化したことによって制御の指針を明確化することが可能となった。水素ガス中でのレーザーアブレーションでは表面が水素化されたナノ結晶が形成されることは我々が以前から指摘している。集合体形成過程は表面状態に強く影響されるはずである。そこで本研究では水素ガスとヘリウムガスの混合ガスを用い混合比を変化させて表面水素化を制御し、集合体構造の構造との関連を調べた。構造を定量化するために集合体の体積と重さを測定し空孔度を定義した。その結果、表面被覆率が高いとナノ結晶の分散性が高まり空孔度が高くなるが、表面被覆率が低いと逆に集合体構造の空孔度が低くなることがわかった。これは量子結合を実現する上で重要である。表面が完全に水素化された場合には孤立性が高まるためにナノ結晶間の相互作用は小さくなる。それに対して水素化が少ない場合には隣接したナノ結晶と融着し波動関数の重なりあわせが期待できる。

 当初の研究計画ではシリコンナノ結晶の結合は有機分子等を用いる予定であった。しかし本研究によってガス中でのパルスレーザーアブレーションが量子結合を制御するよりよい方法であることが明らかになった。有機分子を用いるためにはウェットプロセスを介在せねばならないし、工程数も増加する。雰囲気ガスの制御による凝集体の制御はドライプロセスの過程であることと、雰囲気ガスを制御するのみの1ステップのプロセスである点ですぐれている。そこでパルスレーザー過程での時間的なナノ結晶と表面形成過程をより深く理解することによって配位の制御を行うことに専念した。その結果、雰囲気ガスの総圧と水素ガス分圧の2つを変数とした集合体構造のマップを作り上げた。さらにプルームの進展を観測し。ナノ結晶がレーザー照射後数百ナノ秒程度のタイムスケールで形成し始め、その後表面形成を行いながら成長していくことを明らかにした。この結果を用いて窒素ガス中でレーザーアブレーションを行うことによって表面処理なしに表面窒化されたナノ結晶シリコンの作成に成功した。ナノ結晶シリコンに対して表面酸化の研究は多いが窒化の研究例はほとんどない。窒化膜は酸化膜と比較してポテンシャルバリアーが低くナノ結晶間の波動関数の結合の制御に有望である。

 これまでのナノ配置の制御方法は雰囲気ガスのみでの制御で比較的受動的な制御であった。これらの一連の研究からパルス励起の特長を生かせばより能動的にナノ配置が制御可能であることが示唆される。ナノ結晶と表面の形成はパルス励起後数百ナノ秒程度で初期構造が形成され、その後成長していく。従って成長時間を制御すれば構造の制御が可能である。現在2つレーザーと2つのターゲットを用いて成長時間を制御する試みを行っており、これまでの研究の成果は新たな展開を見せている。


<ナノ結晶集合体の量子結合>

前項「シリコンナノ結晶の配位の制御」で述べたように本研究ではナノ結晶集合体構造の制御を可能とした。量子結合状態を観察するためにはナノ結晶自体の大きさを一定に保ち集合体構造を変化させる必要がある。パルスレーザーアブレーションを用いるとナノ結晶自体は4-5nm と一定で集合体構造のみを変化させることが可能となるため量子結合状態を観察するよい試料となる。量子結合状態は光学ギャップと電気伝導度の測定から検討した。ヘリウムと水素の混合ガスを用いて作成した試料では前述のように空孔度の制御が可能である。このようにして得られた試料の光学ギャップを測定したところ含有水素量の低減、すなわち空孔度の低減とともに光学ギャップが狭くなるという結果が得られた。これは表面の水素の低減により孤立化が弱まったと言うことと隣接するナノ結晶の数が増加したことが原因であると考えられる。すなわちナノ結晶間の波動関数の重なり合いによってバンドギャップが狭くなったことを示唆し、量子結合の制御に成功したことを示す。

 量子結合に関するより詳細な情報は電気伝導特性によって明らかになる。そこで繊維状の一次元的に配列した試料と柱状の三次元的に配列した試料に対して電気伝導特性の温度依存性を測定した。一次元的に配列した試料では3つの温度領域で以下のような特徴を示した。70K〜160Kの領域ではES型のバリアブルレンジホッピング(VRH)を示した。この領域でのホッピング長は二つまたは三つのナノ粒子先へのホッピングを示し、またSiナノ結晶集合体の次元性を変えても、その温度依存性は変わらずT-1/2に従った。160K以上の領域では最近接ナノ粒子間ホッピングの輸送機構を示す。70K以下の領域ではクーロンブロッケイドに似たI-V特性を示した。

一方三次元的に配列した柱状の試料に関しては以下のように異なったメカニズムが観測された。180K以上の温度域では活性化エネルギー型の温度特性が、120K~180Kの温度域では、E-S型のバリアブルレンジホッピングの特徴が得られた。温度域をさらに下げて40K~120Kとしたとき、電圧ー電流特性は金属微粒子集合体で見られるクーロンブロッケードのランダムネットワーク理論(ミドルトンとウィングリーンの理論)と同様であり、量子ドット集合体でのパーコレーション伝導になっていることを示している。

 以上のように温度領域で出現する量子相関の効果が異なることを明らかにした。


<CdSe系物質>

CdSe系量子ドットは安定でありかつ優れた光学特性を有しており、強い量子相関を実現し量子相関に基づく新現象・新機能を発現するための有望な系であると考えられる。そこで本研究では2種類の異なったサイズのCdSe 量子ドットをトルエン中で作成し、そのフォトルミネッセンスの量子ドット濃度依存性を研究した。コロイド溶液はドット間距離すなわち量子相関を溶液の濃度で制御できる。ドット間距離を約58nmから6.6nmまで変化させ小さいドットから大きいドットへの共鳴エネルギー移動、および同じサイズのドット間での共鳴移動をドット間距離の関数として調べた。このドット間距離の減少に伴って起こる発光寿命の減少、および濃度消光を解析したところ、乾燥状態において、異なった量子ドットサイズ間および同じ量子ドットサイズ間での共鳴エネルギー移動はおのおの0.13ns-1および0.08ns-1であることを明らかにした。このように同サイズ間で十分強いエネルギー移動確率があるということは、同じサイズのドット間でコヒーレントな共鳴エネルギー移動が起こりえることを意味している


<エネルギー関連デバイスへの展開>

 光触媒や太陽電池は重要なエネルギー関連デバイスであるが本研究の一部はこの分野を意識して行われている。光触媒としてはInNiTaOのナノ結晶薄膜の作成に成功している。光触媒は表面の存在が重要であるためにナノ結晶集合体の集合構造が重要である。この材料の場合にはシリコンと異なり多元系であるためにターゲットの組成比の維持が重要である。パルスレーザーアブレーション法で作成された試料はきちんと組成が維持されており、しかも可視光で吸収を持つ。本研究で得られたナノ結晶集合体の構造制御技術は光触媒材料の効率向上につながるものである。

 太陽電池への応用として増感剤にCdSe ナノ結晶を用い活性層にTiO2を用いた太陽電池を試作した。半導体ナノ結晶を増感剤として用いるためにはその表面の制御が肝要となるためCdSeナノ結晶の表面を CdS, ZnS および CdS/ZnS で被覆することを試みた。入射光子に対する電流変換効率は表面に CdS, ZnS , CdS/ZnS 被服膜を導入することによって向上した。半導体ナノ結晶はマルチエキシトン効果を用いた高効率な太陽電池材料の研究が行われている。シリコンを例にとれば我々の実験結果はナノ結晶集合体の抵抗率は非常に高くたとえマルチエキシトン効果が起こっていたとしてもそれを効率的に光起電力に結びつけるのは難しい。もう1つの高効率な太陽電池材料の候補として中間バンドを利用した半導体があげられる。我々はパルスレーザーメルティング法を用いシリコンへ硫黄を1020cm-3程度過飽和ドープを行なった。この不純物濃度では硫黄間の距離は1nm程度であり硫黄間の量子相関が出現し中間バンドを形成する可能性が高い。その結果0.6eVにピークを持ち吸収係数が103cm-1に達するブロードな光吸収ピークを観測した。この光吸収は中間バンドによる可能性があり太陽電池材料としての可能性を示唆する。これらの研究は量子相関の研究から派生した研究で今後実用性を検討する。

成果の詳細